漢文のT島先生は特に無信教だそうです。でも、授業の時こんな話をしてくれました。曰く、
「私は特にどの宗教も信仰していないが、キリスト教には疑問がある。旧約聖書では神が1週間で天と地と動植物や人間を造ったと言うけれど、
一番始めに天を造った何もないところにというのは、いったいどこなんだ?その疑問さえ解ければ今すぐにでもキリスト教徒になってもいい。」
私たちはフムフムと何となく納得していたものです。
さて、ある日のこと、いつものようにK野君、K浦君、F島君達と片町を歩いていたところ、例の2人組の外人さんが近づいてきました。そして例のセリフ、
「アナタハ カミヲ シンジマスカ?」
私は何となく面倒くさいなと思っていたのですが、K野君がおもしろそうだから彼らについていってみようと言い出しました。そしてゾロゾロと長町の裏通りにある建物へついて行きました。
建物に入ってしばらくすると、K野君がおもむろに切り出しました。
「旧約聖書では神が1週間で天と地と動植物や人間を造ったと言うけど、一番始めに天を造った何もないところにというのは、いったいどこなんや?
その疑問さえ解ければ今すぐにでもキリスト教徒になってもいいよ。」
ん?どこかで聞いたセリフ。
そう、K野君はT島先生の言葉をそのまま言っていたのです。私から見ればK野君はT島先生と同じように疑問を持って尋ねたわけではなく、
単に彼らをからかおうとしただけにしか思えないのですが、彼らは真剣になって説明を始めました。
「カミハ ホントウニ ナニモナイトコロニ ツクッタノデス。」
「だから、それはどこなんや?」
「ナニモナイ クウカンデス。」
「その場所を知りたいんや。」
まるで禅問答みたいです。
何度か押し問答をしたあげく、とうとうK野君が言いました。
「答えられんがならいいわ。やっぱりキリスト教徒にはなれんわ。みんな帰ろうや。」
結局彼らをからかうというK野君のもくろみはうまく達成できたようです。彼らだって見てきたわけでもないので、答えようがないですよね。
それでも必死になって説明しようとする努力はたいしたものです。
あれから30年以上経った今でもやっぱり片町に新しい彼らがいます。そしておとなしそうな若者を見つけると
「アナタハ カミヲ シンジマスカ?」
とやっているようです。この物語の読者の方がもし彼らに出会ったら、聞いてみてください。
「神はどこに天と地を造ったのですか?」